第32章 眠り王子に祝福の…を
勢いよく扉が開いて二人が入ってきた。遅れること数秒、音もなく謙信様が現れる。
起きている信玄様を見て、二色の瞳が大きく見開かれた。
謙信「信玄…?」
結鈴「わーーー!起きてるっ!」
龍輝「信玄様が起きた!」
子供達はベッドに乗り上げる勢いで飛びつき、喜びをあらわにした。
謙信様は持っていた荷物を置くと静かに歩み寄ってきた。
謙信「信玄、寝すぎだ。さっさと起き上がって俺の相手をしろ。
病に邪魔されず、思う存分刀が振れると思うと心躍るぞ」
剣呑な言葉とは裏腹に表情は柔らかだ。
この1か月、謙信様は何も言わず、ずっと信玄様を案じていた。
信玄「やれやれ、素直じゃないのは相変わらずだな。少しはお前の子供達を見習え。
結鈴、龍輝、心配かけたな」
信玄様は重そうに腕を動かし、二人の頭に手を置く。
「そうだ、看護師さんに声かけなきゃ。あ、佐助君に電話!」
信玄「姫、ゆっくりでいいぞ。王子様は目覚めたからな」
謙信「……おうじ、とはなんのことだ?」
「っえ?あ、なんでもないです!」
もう!と信玄様を軽く睨んで、笑う。
大きな心配事がなくなったことで、久しぶりに心の底から笑うことができた。