第32章 眠り王子に祝福の…を
謙信「いけ…めん…?」
謙信様が首を傾げている傍で、結鈴と龍輝もわからないという顔をしている。
絵美「イケメンっていうのはねー。いけてるメンズってことよ」
絵美が人差し指をピンと立てて得意げに説明した。
(絵美…それじゃあ、謙信様には全然伝わらないよ)
慌ててフォローする。
「えっと、つまりは魅力的でカッコイイ男の人ってことです。龍輝はパパに似てるから将来イケメンになるかもね」
ヨシヨシと頭を撫でると龍輝が嬉しそうにする。
結鈴「じゃあ佐助君と信玄様もイケメンだ!」
「うんうん、そうだね。みんなイケメンだよね」
絵美「相変わらず呑気な顔ねぇ。そういえば見学に来たって言ってたけど子供達に習わせるつもり?」
絵美が腰に手を当てて二人を見下ろす。
「あ、違うの。その、し、主人がね、体が鈍って仕方がないって言うから鍛錬場として使わせてもらおうかと思ったんだけど、うちの庭で大丈夫だって言うから帰るところだったの」
佐助君に『迂闊に名乗らない方がいい。謙信様は下の名前だけでも有名だから』と言われたので『主人』という単語を使ってみたけれど、言い慣れないせいでどもってしまう。
絵美「へえ、旦那さんは剣道をやったことがあるの?」
謙信「ない」
絵美「……」
一瞬だけ空気にピリっとした緊張感が走る。
絵美「その割と全然隙がないんだけど。丸腰なのにその空気だけで斬られそうだわ」
いつも快活とした絵美の表情が真剣なものに変わり、謙信様は酷薄な笑みを浮かべる。
謙信「女だてらに目は確かだな。面白い」
(お、面白い!?)
嫌な予感がビシビシした。
「ちょ、待ってください。女性相手に手合わせなんてしないですよね。ね?」
詰め寄ると謙信様が面食らったように『女相手にそんなことするわけなかろう』と呟いた。
「ほ、本当ですか?」
(佐助君に挑むときみたいに危ない気配がしたんだけど)
気のせいだったかなと胸をなでおろす。
絵美「早朝ならこの道場あいてるから使いたい時に来ても良いわよ」
絵美はあっけらかんとした口調でOKをくれた。