第32章 眠り王子に祝福の…を
「ずっと佐助君だけに付き添いを任せるわけにもいかないじゃないですか。私は仕事がありますし…」
謙信「仕事をとるのか俺よりも…」
悔しそうに言う謙信様が随分と可愛らしい。
佐助君達と話している時の謙信様と全くの別人だ。
(どうしよう、謙信様がかわいすぎるっ!)
しかも『仕事と私、どっちが大事なの』的なことを、まさか謙信様の口から聞けるとは思わず、密かに悶えた。
「もちろん謙信様が大事です。比べるまでもありません。
でも私が仕事に行かなければ賃金を得られなくなり家族で路頭に迷ってしまうかもしれません。
信玄様がいつ目覚められるかわからない今、現代で収入を持つ事は大切です」
謙信「む……」
「それに近いうちに500年前に帰る時がきます。
その時までにこちらで裁縫の知識や技術を少しでも取り入れておきたいんです」
信玄様の手術前に皆で話し合い、信玄様の病が完治したら戦国時代へ戻ろうという話になった。
子供達を過去に連れて行く影響を危ぶんだけど、大勢の人が帰りを待っている謙信様と信玄様をこの時代に留め置くのは違う気がした。
今までアシスタントの仕事をしながらデザイナーの勉強はしてきた。でも戦国の世に帰ると決めてからは特に戦国時代で生かせる知識を意識して取り入れるようにしている。
謙信様は難しい顔で考えあぐねていたけれど、やがて大きなため息をついて了承してくれた。
謙信「お前の言う事に一理ある。不本意だが佐助とともにここに留まろう。
ただし休みの日は必ず顔を見せろ、いいな?」
(きっと100歩も200歩も譲ってくれたんだろうな)
寂しさを滲ませている謙信様に感謝する。
「ふふ、もちろんです」
その夜は離れる寂しさを埋めるように抱きしめ合って眠りについた。