第32章 眠り王子に祝福の…を
「!!おかえりなさいっ、あの、信玄様は?信玄様は大丈夫ですよね?」
謙信「ああ、持ちこたえた。医師達が手を尽くしてくれた」
良い報せなのに謙信様の顔色が優れない。疑問に思っていると、
佐助「このまま目を覚まさない可能性が高いそうだ」
「えっ!?」
二人の顔を交互に見て、それ以上の言葉を失う。
佐助「想定はしていたけど、体が耐えられなかったんだろうって…」
「そんな…」
信玄様の腫瘍は大きくなりすぎていて、体力を回復させてから手術をするなんて悠長なことは言っていられなかった。
本人も私達も覚悟をしての手術だった。
佐助「容態が落ち着くまで集中治療室に入ることになった。
俺がついていてもやることはないだろうって謙信様に連れてこられたんだ。
今夜は部屋をとって泊まる事にした」
「そう…。佐助君もずっと付き添ってくれていたから疲れたでしょう。ゆっくり休んでね」
佐助「ありがとう」
泊まる部屋番を備え付けのメモに記して佐助君は出て行った。
「謙信様もお疲れさまでした」
謙信「ああ」
この部屋にはソファが無いのでベッドの淵に二人並んで座った。
しばしの沈黙が訪れた後、肩に手が回され引き寄せられた。謙信様にもたれるような体勢になり堅い胸に手を添える。
トクントクンと手に伝わってくる鼓動にホッとした。
謙信「俺はお前を残して死ぬことはない。そんな顔をするな」
緩んだ雰囲気に体の強張りが融けた。
「こうしていると、とても安心します」
フゥと息を吐くとザワザワとしていた気持ちが凪いでいく。
謙信「俺もだ」
肩に回っていた腕に力が籠る。
(謙信様も不安…なんだろうな)
そう言ってしまえば『信玄のことなど露とも思っていない』とか強がりそうだから言わないけど。