第32章 眠り王子に祝福の…を
佐助「信玄様の容態が急変した。
さっき心肺停止になって、今、家族を呼ぶようにと言われたんだっ」
「えっ」
切迫した事態を教えるように佐助君は早口だ。
「わ、わかった。すぐ行くね」
通話を切り、スマホを置く。
心肺停止
(うそ、うそ……!)
謙信「舞?佐助はなんと言っていた?」
堅く握りしめた拳に謙信様の手がそっと添えられた。
ショックで謙信様の存在を一瞬忘れていた体がビクンと跳ねた。
謙信「落ち着け、俺が居るだろう?お前はもう一人ではないのだ。
不安だったら不安だと言え。俺をもっと頼れ。それとも俺は頼りないか?」
「いいえ、そんなこと…」
握っていた手を開くとそれは小刻みに震え冷たくなっていた。
すがるように大きな手を掴んで見上げると、私を案じてくれている謙信様の顔があった。
支えてくれようとしている謙信様を感じて一気に涙腺がゆるんだ。
「信玄様の心臓が止まって処置を施しているそうです。医師から家族を呼ぶように言われたと。
謙信様、すぐ行ってください!私は龍輝と結鈴とここで待ちます」
信玄様が起きるのを楽しみにしていた子供達に、厳しい現実を見せたくない。
謙信「そうか。少し一人にするが辛抱しろ。
眠れなくとも体を横にしておけ」
謙信様は私を落ち着かせるように抱きしめた。
抱きしめられる瞬間に見えた瞳には暗い光が渦巻いていた。
(取り乱している私のために感情を抑えてくれてるんだ)
私よりもずっと長い付き合いの二人だから受けるショックは大きいだろうに、申し訳なく思う。
謙信様はベッドに私を寝かせると、あっという間に病院へと出かけて行った。