第32章 眠り王子に祝福の…を
夕方まで待っても信玄様は目を覚まさず、佐助君を付き添いに残して私達は近くのホテルに宿泊した。
「信玄様、早く目を覚ましてくださらないかな…」
子供達は寝静まり、謙信様はシャワーを浴びに行っている。
部屋の灯りを最小限に落とし、カーテンを少し開けると丸いお月様が見えた。
星の光を打ち消すくらい強い光を放っていて、とても明るい夜だ。
「綺麗な月夜ですよ、信玄様」
手術前まではいつも通りに話して、笑って、困らせてきた信玄様が目を覚まさないなんて信じられなかった。
「いち早く起きるんじゃなかったんですか、信玄様」
優しい声色と眼差しが戻って来ないんじゃないかと不安になる。
「だ、駄目だ。ちょっとお酒でも飲んで気分転換しよう」
備え付けの冷蔵庫の中身を確認していると、謙信様がシャワーを済ませて出てきた。
謙信「何をやっている?」
「お酒を飲もうかと思って。お月様がとても綺麗な夜ですよ、謙信様もいかがですか?」
心の不安を悟られないようにつとめて明るく振舞った。
謙信「舞、お前はもっと…」
見透かすような視線で謙信様が言いかけた時、スマホが振動し着信を知らせた。
「こんな時間に誰だろう…佐助君からだ!謙信様、ちょっと失礼しますね。
もしもし佐助君、どうしたの?」
一抹の不安を感じつつ電話に出ると佐助君の焦った声が聞こえてきた。