第32章 眠り王子に祝福の…を
結局手術が終わるまでそのまま廊下に居座った私は、眠っている信玄様と共に病室へ戻った。
医師「手術は成功しました。摘出したものを見ますか?」
そういって医師が見せてくれたものは幾つかの赤黒い塊だった。
表面はボコボコしていてグシャっとしている。
医師「体に開けた穴から取り出しやすいように腫瘍を切り分けました。もともとはこのくらいの大きさの腫瘍です」
医師が手で表した大きさは、小さめのおにぎりくらいだった。
謙信「このような異物を抱えていたのか」
謙信様は一言そう言って信玄様の顔を眺めた。
信玄様の瞼は固く閉じられたままだ。
医師「麻酔が切れる時間はとうに過ぎているんですが体力が落ちていたせいでしょう、目を覚まされません。病室に移して様子をみることにします。
看護師が定期的に様子を見にきますが、目を覚ましたらナースコールでお知らせください。」
医師が病室を出ていくと龍輝と結鈴が信玄様の傍に寄った。
龍輝「信玄様、まだ起きないの?」
佐助「うん、予定よりちょっと目を覚ますのが遅れているだけだ。すぐ目を覚ますと思うよ」
佐助君の口調はいつもと同じだったけど信玄様を心配しているのが伝わってきた。
結鈴「また遊んでほしいな」
つまらなさそうに結鈴が信玄様の頬をツンツンとつついた。
「こら、結鈴。悪戯しないの。こういう時は手をつないであげると良いんだよ」
布団から信玄様の手を取り出し、結鈴と一緒に手を握ってあげる。
(信玄様の手、冷たい)
冷たい手が少しでも温まるよう、力ない大きな手を包んであげた。
龍輝「幸村の夢を見られるかな?」
龍輝が幸村の人形を信玄様の肩口に置く。
「ふふ、一緒に寝てるみたい。これで寂しくないね」
(早く目を覚ましてください、信玄様。皆、待ってますよ)