第32章 眠り王子に祝福の…を
信玄「姫?」
「二人の内緒ですからね!あなたが病に勝てるようお祈りしていますっ」
そう言って信玄様の両頬に手を添えて、その色っぽい唇から少しずらした口元に……1度だけ口づけをした。
信玄「!?」
唇に触れた信玄様の感触に、顔だけじゃなく体が熱くなった。
「ふ、深い意味はないですからね。おまじない、そう、おまじないです!」
真っ赤になってるだろう私の顔を、信玄様が呆気にとられた顔つきで見つめ返してきた。
数秒後には私が口づけした部分を嬉しそうに指で押さえ『ありがとう、いってくる』。そう呟いて手術室へと入っていった。
夫婦だと思い込んでいる看護師さんは気を利かせて何も言わず、でもかえってそれが恥ずかしさを助長させた。
「あれは頑張って欲しかったから、応援のキス!そう、全然やましくない、やましくない。全然流されてない…って、流された?同情?
あー、謙信様、ごめんなさい、ごめんなさい」
「謙信様が他の人に『まじないだ』ってキスしたら絶対嫌なくせに、うーん…!」
手術室の前に置かれた椅子に座り、うーんと唸っているうちに、いつの間にか手術の不安が薄れていた。
(信玄様の不安を少しでも軽くできたかな。頑張ってください、信玄様)
そう願い、心乱れたまま手術が終わるのを待った。