第32章 眠り王子に祝福の…を
(あ、れ?)
引き寄せられ、次の瞬間には信玄様の顔が目の前にあった。
信玄「舞、一度だけでいい。俺に祝福の口づけをくれ」
からかいの雰囲気は一切なく、どこまでも真っすぐに求められた。
「し、信玄様っ!」
本気で求められているとわかり顔が熱くなった。
信玄「その顔、そそられるな。俺を男として意識してくれたのか?」
「駄目です!謙信様がっ……」
信玄「しっ」
信玄様の唇が近づき、ちょっとでも動けば触れそうな気配に動けなくなる。
心臓がドクンと音を立てた。
信玄「一度だけでいい。手術の成功を祈る祝福を…俺にくれ」
ほんの数ミリだろう距離が限りなくゼロになり、唇が今にも触れそうだ。
ドキンドキンと心臓がうるさいくらいに鳴っている。
大人の色気を過分に含んだ存在にクラリと眩暈がした。
(どうしようどうしよう?)
間近で目を合わせることが恥ずかしくて目をぎゅっと瞑った。
看護師「三雲さん、三雲 信(しん)さん。
中へお連れしますね」
バン!と音がして看護師さんが手術室の扉をあけて出てきた。
信玄「残念、時間切れだ」
するりと体を離した信玄様が……本当に、心底…寂しそうに見えた。
看護師さんが車椅子を押して手術室へ入っていこうとする。
「ま、待ってください!」
私は信玄様に駆け寄って体をかがめた。