第2章 夜を忍ぶ
(障害だらけというか障害しかない)
現代に帰ろう…
(謙信様を忘れられるか自信がないけど)
目の前に座っている謙信様は、どこからどこを見てもやっぱり素敵だと思う。
モデル顔負けの容姿はおいておいたとしても、部下を助けるために敵の城へ忍び込む大胆さは他の武将にはない。
型破りな行動も多いけど情に厚い人なのだろう。
素っ気ないし、怒ると怖いけど、垣間見える心はとても優しいものだ。
(謙信様の方こそ知れば知るほど惹きつけられちゃうよ)
現代には絶対居ないタイプの人だ。
(佐助君。あなたの上司は『悪い人じゃない』どころか『とても良い人』だよ。
良い人すぎて、好きになってしまうくらい)
そっと視線を外し囲炉裏で赤々としている炭を眺める。
(今夜でこの恋は終わり…)
あっけない終わりに鼻の奥がツンとした。
謙信「…何故帰る必要がある?安土での暮らしに不満があるのか?」
首を傾げた時に褪せた髪が揺れた。
そういう仕草ひとつで簡単に鼓動が跳ねる。
(諦めようとしているのに、すぐに魅入っちゃう…駄目だなぁ)
「何も。申し訳なくなるくらい良くしてもらっています。
けれど望郷の念というのは、なかなか消えないものです。
それに私はここに居て良い人間ではないので…」
謙信「どういう意味だ?」
追及されて我に返る。
(500年後の人間がいつまでも居る訳にはいかないっていう意味だったけど、そんなこと言えない!)
「あ、いえ、特に深い意味はないです。
世間知らずの田舎者が、いつまでも偽りの姫をしているわけにもいかない、という意味です」
謙信「……」