第2章 夜を忍ぶ
「信長様はあまり夜眠らない方なのでお酒のお酌をしたり、囲碁の勝負をしているんです!決して、やましいことはしていませんっ!」
謙信「囲碁だと…?お前を傍におきながら、あの魔王はそんなことをしているのか?
夜伽を命じられたことはないのか?」
謙信様は毒気を抜かれたように目を見開いている。
「挨拶代わりに『夜伽を命じる』と言われますが、いつもお断りしています。
そのあと囲碁の勝負が始めるのがいつもの流れです」
謙信「くっ。あの魔王を袖にしているのか」
謙信様が肩を揺らし笑いをこぼした。
寵姫なのかと聞いてきた時とは雰囲気がまるで違う。
(寵姫じゃないって信じてくれた…のかな)
「袖にしているというか信長様は冗談で夜伽を命じてくるだけです。
それに偽物の姫より正真正銘のお姫様を傍に招いた方が可愛らしくて上品で博識なのではないでしょうか。
私は姫としての作法も、考え方や、覚悟も…何も持ち合わせていません。
こんな服を作って夜中にコッソリ体操しているような女です。寵姫なんて大層なお役目、私には絶対まわってきません」
すこし毛色の違う私が珍しいだけで、それ以上でもそれ以下でもない存在だと思う。
肩をすくめてみせた。
謙信「正真正銘の姫など、どれも似たようなものだ。面白味もなく退屈なだけだ。
その点、お前は知れば知るほど他の女にはないものを持っている。
信長は存外本気ではないのか?お前のような女を信長は手放さないだろう」
「買いかぶりすぎです。それに私、もう少ししたら国に帰ろうと思っているので」
謙信様に惹かれていたから最近はその決心が揺らぐ時もあったけど、こうなってしまった以上謙信様の傍には居られない。
よく考えれば最初からなんの可能性もなかった。
私はいったい謙信様とどうなりたかったんだろう?
過去の人に深く関わってはいけないと思うし、謙信様だって信長様と同じで越後を治めている立派な方だ。
そんな人にどこにでも居るような私が釣り合うとは思えない。
謙信様は女嫌い。
そして安土の皆から見たら敵だ。
好きだなんて絶対言えない。