第32章 眠り王子に祝福の…を
そこへ看護師さんがやってきた。
看護師「今から麻酔の準備にはいります。点滴の中身を替えますね」
テキパキと点滴液を替えた後『もう直ぐ先生が診察に来ます』と言い残して看護師さんは去っていった。
数分もしないうちに先生が診察に来て、予定通り手術をすることになった。
(もうすぐ手術の時間だ)
手術をするのは信玄様なのに不安がムクムクと大きくなってきた。
点滴液がポトッポトッと落ちている様子を見ながらそっとため息を吐いた。
結鈴「信玄様、頑張ってね?」
龍輝「信玄様、早く帰ってきてね」
手術が何なのかよくわかっていない二人なりに声を掛けると、信玄様はニコリと笑い、大きな手を二人の頭に乗せた。
信玄「ああ、二人ともいい子で待ってろ」
その後謙信様と佐助君の方を向いた。
信玄「謙信、俺をここまで連れてきてくれてありがとな。
佐助も世話をかけた」
いつも通りの軽い口調だったけど、なんだかズシリと重みのある言葉だった。
(お礼を言ってるだけなのに、なんだろう。このまま信玄様と会えなくなりそうな気がしてくる)
縁起でもないと自分で否定する。
佐助君も同じだったのか神妙な顔つきで『いいえ』と短く答えただけだった。
ところが謙信様だけはいつも通りで、
謙信「そのような礼はいらん。さっさと肺の腫瘍とやらをとってこい。
安心しろ。いつまでも寝ているようなら、この間のように刀を突き付けて起こしてやろう」
物騒な物言いに信玄様は呆れて苦笑し、
信玄「寝起きに刀を突き付けるのはもう勘弁してほしいな。
起こすなら…姫の口づけにしてくれ」
「え!?そ、それはちょっと…」
突然話をふられて返答に困る。
からかい混じりの眼差しの奥に、ゆらりと熱が灯っている。
謙信「ほう。今すぐあの世に行きたいのならそう言えば良いものを。覚悟は良いか?」
信玄様から私を隠すように、謙信様が立ちはだかった。
信玄「おいおい、本気にするな。ここまで連れてきてもらってお前にやられちまったら浮かばれないじゃないか。いつもの冗談だ」
謙信「お前の女に関わる戯言は嘘か真かわからん。
舞は俺のものだ、手を出すなよ」
信玄「車の中で手を出さないって言ったろう?」
止めにはいろうかと思った時に看護師さんがやってきた。