第32章 眠り王子に祝福の…を
信玄「ああ、謙信の女に手は出さんよ。
だが可愛らしい姫を特等席でじっくり眺められるのは役得だな」
「信玄様…」
(また謙信様を煽るようなことをっ)
謙信様は見事につられた。
謙信「……やはりお前が一番後ろの席に行け。舞の隣は俺が座る」
信玄様に向けられた眼差しに物騒な光が浮かんだけれど、その光は瞬く間に消えることになる。
龍輝「パパと一緒に車に乗るの初めて。嬉しいなぁ」
謙信様の腕にギュウとしがみつく龍輝と、甲斐甲斐しく世話をやこうとしている結鈴。
結鈴「しーとべるとはね、こうしてこう…、だよ。
車がぶつかった時にこれが守ってくれるんだって」
カチッと音がして結鈴がニコニコしている。
龍輝「気持ち悪くなったら言ってね、パパ」
謙信「……ありがとう、龍輝、結鈴」
信玄様を睨んでいたというのに、龍輝と結鈴の無邪気な様子にたちまち毒気を抜かれたようだった。
「フフ、では出発しますね。まずは佐助君を『駅』まで送っていきます。15分くらいで着きます」
初めて車に乗る二人のためにそれぞれの窓を少しずつ開けて空気を取り込んだ。
エンジンをかけゆっくりと発進させる。
謙信「う、動いた。これを舞が動かしているのか?」
バックミラーにびっくり顔の謙信様が映った。
龍輝「パパ、車に乗ったことないの?アクセルを踏むと走って、ブレーキを踏むと止まるんだよ!」
結鈴「たつきー。そんなの教えなくてもパパなら知ってるよ!」
謙信「……」
子供達の間で何とも言えない顔をしている謙信様が見え、佐助君と信玄様の忍び笑いが聞こえてくる。
「フフッ、さてビューン!と行くからね。パパに捕まってるのよ?」
龍輝・結鈴「「はーい」」
車を加速させると二人は喜び、謙信様と三人で流れる景色を楽しんでいた。