第31章 パパなんて嫌い
「ちょ、ちょっと謙信様、失礼ですよ。とって食べるわけじゃないんですから」
謙信「俺が…」
こちらを振り返った顔は至極不満そうで、何か言いかけた。
(『俺が?』どうしたんだろう?)
「はい?」
謙信「まだ抱き足りないし、もっと顔を眺めたいのに、何故あいつらに渡さねばならんのだっ!」
謙信様が吐き捨てるように言った言葉を理解するのに数秒かかった。
「………ぷ。や、やだ謙信様ったら、そんな理由だったんですか?」
信玄様と佐助君はやれやれと呆れ顔で、謙信様が私の方を向いている間に龍輝と結鈴は興味深々の様子で二人の傍に近づいていく。
謙信「そんな理由とはなんだ!舞と結鈴から許しを得て、これからゆっくり愛でられると思っていたというのに…」
そんな謙信様の気持ちなど露知らず、龍輝と結鈴は佐助君と信玄様の間にチョコンと座ってニコニコしている。
結鈴「信玄様、大きい」
信玄「そうか?結鈴は小さいな、よっ、と」
信玄様が結鈴を肩に乗せて立ち上がった。結鈴が『キャー』と笑う。
龍輝「佐助君は忍者なんだよね。
悪いお代官様が、お菓子の箱に入った小判を受け取ってるのを天井裏からこっそり見てるんでしょ?」
(な、なにそれ?)
一昔前の時代劇の内容そのまんますぎて唖然とする。
謙信様をからかうのをやめて龍輝に訊ねる。
「どこでそんなの覚えてきたの?」
龍輝「えー、ママが電話してた時にTVでやってたんだ。
その忍者はね、お代官様に見つかったんだけど手裏剣をシュシュっと投げて、何かを投げたらモクモク煙がでてきて逃げちゃったんだよ。格好良かったな~」
佐助「その煙は煙玉を使ったんだ。実物はこれだ」
話を聞いていた佐助君が懐からお手製の煙玉を取り出した。
佐助「ただし見るだけだ。ここで投げたら君達の家がとんでもない事になる」
龍輝「わぁ!ねえねえ、忍者が戦う時ってさ…………」
佐助「それは現実的な方法とは言えない。そういう時は………」
龍輝は時代劇で得た知識をフル活用してあれこれ質問して、佐助君は本物の忍びとしての答えを教えていく。