第31章 パパなんて嫌い
謙信様は階下の佐助君に冷ややかな視線を送る。
謙信様が結鈴を抱き上げ、すぐ傍に龍輝が立っているのを見て佐助君はわかりにくく表情を緩めた。
佐助「いえ、俺の早とちりだったようです。良かったですね、謙信様」
謙信「……何をどのように早とちりしたのか後でゆっくり聞いてやる」
謙信様は不機嫌そうに呟くと、結鈴の顔を覗き込んだ。
謙信「結鈴、すまなかった。俺を許してくれるか?」
結鈴「うん。結鈴もごめんなさい」
結鈴はゴシゴシと袖口で涙を拭いた。
まだグスグスと鼻を鳴らしているけど、もう落ち着いたようだった。
謙信「良い。では行くぞ。佐助達が待っている」
謙信様は結鈴を抱いたまま階段を降り、私は龍輝と手をつないで降りる。
龍輝「ねえ、ママ。パパってさぁ、パパって、すっごいカッコイイね!」
「ふふ、そうでしょ?わかってくれて嬉しいなぁ」
龍輝相手につい惚気(のろけ)てしまう。
龍輝「パパと一緒にお部屋を使ってたのは『佐助君』だったんだね。もう一人はだあれ?」
「会えばわかるよ。ママが作ったぬいぐるみにそっくりなんだから!」
二人は私が作った二頭身の武将人形で顔と名前を憶えている。
だから信玄様に会えばわかるはずだ。