第31章 パパなんて嫌い
謙信「結鈴、お前の顔を見て謝りたいのだ。顔を見せてくれぬか?」
しばしの沈黙の後、私にしがみついたまま結鈴が動いた。
恐る恐る、ゆっくりと顔だけ動かして…初めて謙信様と顔を合わせた。
私に似た結鈴を見て、謙信様の表情がちょっぴり和らいだ。
謙信「母は優しいゆえ俺を責めなかった。お前が母の代わりに俺をなじれ。お前の怒りは正当なものだ」
結鈴「……」
難しい言い回しに意味がわからないだろうと思ったのに、結鈴はじっと謙信様を睨んで言った。
結鈴「パパはママのこと嫌いなの?パパが怒ったらママも龍輝も結鈴もパチンってされるの?」
しがみつく結鈴の手がとても強かった。
(普段はおっとりしていて喧嘩するといつも龍輝に負けちゃうのに、こんなにも主張する力があったんだ…)
謙信「俺はお前の母のことを愛している。この世の誰よりも、だ」
結鈴「じゃあなんで?」
私によく似た薄茶の目が謙信様を睨み続けた。
謙信「どういえば良いだろうな。深く愛するがゆえにどうしても許せなかった。
が、結鈴が言う通り手をあげるべきではなかった。話を聞けば父の勘違いだった」
謙信様が結鈴の頬をすっと撫でると、結鈴はビクッと体を奮わせ一歩後ろにひいた。
謙信「昨夜母と約束した。俺は舞や、お前達に二度と手をあげない。信じてくれるか?」
結鈴「……」
結鈴の出方を辛抱強く待った。
結鈴「パパはママを叩いた時、痛かった?」
「?」
私は結鈴の問いかけの意味がわからなかった。