第31章 パパなんて嫌い
「結鈴…ほら、見て。パパだよ」
誘ってみるけど結鈴は私にしがみついて離れない。
「結鈴…」
無理やり引き合わせるのもよくないと考え直し『ごはんの後にしようか』と言いかけた時、不意に近くで謙信様の声がした。
いつの間にか謙信様は龍輝を下ろしていて、結鈴の近くに片膝をついた。
結鈴は気配を感じてますます私の後ろに隠れ、それでも謙信様はゆっくりと手を差し伸べた。
謙信「結鈴…お前の母に手をあげたことは俺の大きな間違いだった。
母は許してくれたがお前を怖がらせてしまった詫びを入れていなかったな。すまなかった。」
結鈴「やだ、パパなんか嫌い!ママ、パパが居ない間一人で頑張ってたのに!
パパの着物を縫いながらずっと待ってたのに!叩いちゃ駄目なの!
パパなんて大嫌いっ!」
謙信「っ……」
結鈴は謙信様の手をパシンと叩いた。
「結鈴!」
慌てて結鈴をたしなめる。
結鈴「なによ!ママはパパが大好きだって言ってたのに、なんでパパは叩いたの!」
興奮してきたのか結鈴がポロポロと涙をこぼした。
きっと理屈じゃない。どんなに説明しても結鈴の中では『パパがママを叩いた』それだけの出来事が強く残ってしまって、許せなくなっている。
(困ったな。どうしたら良いんだろう)
落ち着くのを待って、じっくり腰をすえて説得するしかない。
長期戦を覚悟しため息をついた。
謙信「結鈴、おいで」
謙信様は叩かれた手をまた結鈴に差し出す。
結鈴「嫌!!」
結鈴はまた謙信様の手を叩いた。さっきよりも強い。
「ちょっと結鈴!なんてことを…!」
謙信「……」
すっと手で止められ、私は黙った。
謙信様はまた手を差し伸べる。