第30章 仲直り
謙信「ゆりとたつきというのか。俺達の子は」
「はい。本当は謙信様に名付けて頂きたかったんですけど…。
そうだ!少しお待ちくださいね」
本棚の一番上からアルバムを数冊取り出してテーブルに置いた。
謙信「これはなんの書物だ?」
訝しむように見ている謙信様に説明する。
「これは写真というものを収めたアルバムというものです。
現代では人や物などを簡単に写しとって紙に残すことができます。このように…」
退院する際に病院で貰ったお祝いアルバムを開いた。
謙信「……っ!」
生まれた日の二人の写真を目にして、謙信様の目が大きく見開かれた。
謙信「これは…これは何と精巧な…。まるで今にも動き出しそうだ」
信じられないというように写真に触れた。
「写真はゆりとたつきでも撮れるくらい簡単です。今度謙信様も撮ってみましょうね。
これは私が出産した時の記念アルバムです。めくってみてください」
ページをめくる度に謙信様は感嘆の息を漏らした。
保育器を指差し、これはなんだと聞いてきたので答えた。
「双子だったから仕方ないのですがそれぞれの体重が軽くて、保育器に入って体重が増えるのを待ちました。
この中は…で……、…です」
私のつたない説明を聞きながら謙信様はページをめくっていった。
最後のページで手をとめ、二人の手形、足形に自分の手を重ねている。
謙信「こんなに小さかったのか」
切れ長の目が緩み、小さな手足を愛おしむ様子が微笑ましい。
常に纏っている冷ややかな雰囲気が今はとても柔らかかった。
「名前の漢字ですが、こう書きます。私は毛筆があまり得意ではないので件(くだん)のお寺の住職に書いてもらいました。」
本来はお七夜に書いてお祝いするものだけど二人は保育器の中だったし、私自身それどころじゃなかった。
2人が2歳になる少し前に住職にお願いして命名書を書いてもらった。