第30章 仲直り
謙信様に振り回されてばかりで悔しくなり話を戻した。
「えーとそれで…お寺で文を受け取って謙信様の状態を知りました。
和室に飾ってある着物は謙信様の無事を願って縫ったものなんです。着物を縫うことで私の心も救われました」
謙信「何故だ…?」
「大好きな人のための着物を縫えるなんて、この上なく幸せな気持ちになるんです。
この生地は似合いそうだとか、これを着たらどんな感じになるかなとか、どんな表情をしてくれるかな…って。
離れていても謙信様をすぐ傍に感じられて寂しさを忘れられました」
謙信「舞…」
謙信様が固唾をのんで耳を傾けてくれて、愛おしい想いが膨れ上がった。
「それに何よりも謙信様は私に子供という宝をくださいました。
大変なことは多々ありましたがそれを守ることで、私は生きる目標を得ていました。
離れていても私を守り、支え、生きる目標を与えてくれました。
ありがとうございます、謙信様」
なんだか胸が熱くて、泣きながら…笑った。
謙信「無実の身でありながらののしられ、傷つけられ、それでも許してくれるのか。
恨み言一つ言わずに礼を述べるなど、お前の心は何故そのように清らかなのだ」
緩んでいた腕が腰と肩に回されて力いっぱい抱きしめられた。
凄く苦しいし痛いけど謙信様とこうしていることが嘘みたいで、されるがままだ。
「今日は一日ずっと悩んでいましたが怒ってはいませんでした。
寂しい気持ちと、どうして誤解されたんだろうってそればかりでした。
きっと惚れた弱みです。謙信様になら怒られても何されても、許しちゃうんだろうなって思います」
謙信「惚れた弱み…か。お前の懐の深さには叶わんな」
以前よりも骨ばった手が私の両頬を包み込んだ。
私の存在を、温もりを確かめるように触れてくる。
「今度こそ俺はお前を守る。お前も、子も。
だから俺一人置いていってくれるな。ずっと傍に居ろ」
誠実な言葉に続いて薄い唇が寄せられた。