第30章 仲直り
謙信「昨日の昼過ぎに義元が俺を訪ねてきて、木材の搬入作業に入ったと言っていた」
「義元…様?昨日……」
謙信「今川義元だ。あいつは芸事、焼き物、絵、とにかく美しいものを好んでいてな。
その方面の人間とも交流があったゆえ、寺の建設は義元に頼んだのだ」
(今川義元って…えっ?)
もう亡くなっているはずじゃ…と驚いたけど、それを言うなら謙信様、信玄様、信長様だって同じだ。
きっと史実とは違う何かがあって生き残り、謙信様と交友があったのかもしれない。
新たな事実に驚きながら、今から500年前に再建されたお寺の搬入作業の知らせを『昨日』受けた。そう言われて目の前に居る謙信様の存在がとんでもなく尊かった。
(本当に500年の時を越えてきてくださったんだな)
背に回している腕にキュッと力を込めた。
「寺に預けられていた謙信様からの文もちゃんと受け取りましたよ」
謙信「そうか。代々の住職達に感謝せねばならぬな。お前を介抱したという現住職にも直に礼を言いたい」
「ふふ、ご住職には私が戦国時代へ行った事も、子供達が謙信様達の子だという事も話してあるんです。
謙信様が会いに行ったら、きっと凄く驚かれると思いますよ。謙信様は500年後の現代でも有名人ですから」
謙信「俺の名がこの世に残っているのか…」
「もちろんです。歴史に疎い人でも『上杉』と聞いたら『謙信』って答えると思います」
謙信「……」
腰に回っていた腕に力がこもり謙信様の体にギュウギュウと押し付けられる。
「あのっ!謙信様、く、苦しいです!」
本格的に呼吸がし辛くなって抗議する。
(急にどうしたんだろう?)
よく見ると謙信様はほんのりと顔を上気させ、目を輝かせている。
(ん?)
謙信「もう一度、聞かせてくれ。俺の名を呼べ」
「?謙信様…?」
訳もわからず名を呼ぶと謙信様は違うと首を振る。