第30章 仲直り
「そ、そんなこと言ったら謙信様は私のためだけに生きてるみたいですよ」
危うい考えだと思うのに嬉しくてたまらない。
喉元に熱いものがせり上がってきて、また新たな涙を流す。
謙信「その通りだ。俺は舞を失くしたら今度こそ死ぬだろう」
「謙信様はどうして私をそんなにも深く愛してくださるのですか?」
どこにでもいる普通の女だと思うのに、謙信様は私だけと言ってくれる。
「もっと綺麗な人だっているし、もっと志高く生きてる人だっているのに、なんで私なんですか?」
謙信「なんで、どうしての問いは無意味だ。あの宿でも言っただろう?
俺には舞がどの女より一番美しく愛らしく見える。内に持っている優しさも、強さも俺を魅了してやまない。
その声でさえ、吐息さえ愛おしく思う。こうしているだけで心の臓が高鳴る」
言葉通り、謙信様の左胸から少し早い鼓動が聞こえた。
安土城の私の部屋で聞いた時と同じ、トクトクトクと早く力強く伝わってきた。
(な、なんだか聞いておいてなんだけど恥ずかしくなってきちゃった)
盲目的ともいえる愛を告げられ、それでも怖いどころか嬉しすぎてしかたない。
恐る恐る謙信様の背に手を回してみた。
抱きしめた背中の感触は以前より骨っぽく、細くなっていた。
「こんなに痩せてしまって…謙信様、ごめんなさい。
……勝手にいなくなってごめんなさい」
たった半年でこんなに痩せてしまうなんて、どれだけの心痛を与えてしまったのか。
謙信「お前は馬鹿だ。子ができたのは俺に責があろう?
あの日……一度は拒んだ舞に、その優しさにつけ込んで種を残したのは俺だ。
一人で抱え込み、現れるはずのない女との幸せを願うなどお門違いもよいところだ。だが…」
謙信様の腕に力がこもる。
謙信「だが…お前より馬鹿なのは俺だ。大馬鹿者だ!
睦月(一月)の終わりに体調を崩したと知った時、身籠った可能性を考えるべきだったのにそれすらしなかった」
力いっぱい抱きしめられて苦しい。
謙信「お前を安土に残し、一人で悩ませ、死の苦しみを味合わせた。
俺との約束のため生き延びる道を選び、子を育ててくれていた舞を…っ、話をきくこともせずに手をあげるなど、すまなかったっ」
息ができないくらい強く抱きしめられた。