第30章 仲直り
「現代へ帰ると決断した時、もう会えないのなら子供の話はしない方が良いと思いました。
謙信様は義理堅い人だからご自分を責め続け、私や子供への思いに一生縛られてしまうと。伊勢姫様のことで傷つき苦しんだのを知っていたから二の舞にならないようにと…。
あなたを縛り付けたくなかったんです。
私のことは忘れ、謙信様の心を満たしてくれる誰かを見つけて、次こそ幸せに生きて欲しかったんです」
本当は他の女性となんて嫌だった。
でも現代へ帰るという選択肢をとった私にできたのは、そうやって謙信様の幸せを願う事だけだった。
謙信「…っ!」
謙信様の目がカッと開いた。やつれている謙信様の目だけが異常にぎらつき、怖くて咄嗟に目線を落とした。
謙信「縛り付ければ良かったのだ!どちらにしろ俺はお前に心捕らわれていた。他の女などいらん!
俺はお前だけを愛すると誓った!それを信じなかったのか?」
謙信様の口調は怒っているのに、心は泣いているようだった。
『信じてもらえなかった』そんな気持ちが伝わってきて胸が痛くなった。
「ごめんなさい。私だけを愛すると言ってくれたこと、その言葉を疑ったことはありません。
でもそれは謙信様の隣に私が居ることを前提にした話だと思ったんです。
子供のことさえ告げなければ傷は浅く済み、一時は悲しんでも謙信様は立ち直ってくださると思いました。
悲しみに打ちひしがれるより誰かと幸せになって欲しかったんです」
謙信様は勢いよくソファから立ち上がり、私の傍に立った。
急に縮まった距離に怯えている私を気にも留めず、謙信様は腕を掴んでソファから立ち上がらせた。
怒った顔が間近に迫り喉がコクンと鳴った。
謙信「馬鹿なっ。お前以上の女がどこに居る?
お前以上に愛せる女など、どこにもいない!
俺が愛せるのは舞だけだっ!」
「っ」
(今…私だけって言ってくださった………?)
吐き出すように言って謙信様は私を抱きしめた。
体をすっぽりと包まれ、謙信様の言葉を脳内で反芻すると
…まっすぐな愛情だけを感じた。