第30章 仲直り
(姫目線)
信玄「謙信、いいのか。自分の忍びに先を越されているぞ」
信玄様の声につられて、つい謙信様の方を見てしまった。
謙信「…………」
「…………」
ずっと合わせられなかった視線がピタリと合った途端、身体が強張った。
(あ…。何か、言わないと…)
真正面から顔を合わせたら頭が真っ白になってしまった。
誤解は解けた…けど謙信様がどう思ったのか聞いてない。
謙信様は表情はなく、何も言わない。
怒っているのか、そうじゃないのかもわからない。
信玄「とりあえず誤解は解けたことだし、あとは二人で話し合え。
きっと言いたいこと聞きたいことはまだあるだろう?」
(う…)
佐助「そうですね。今後のことは明日以降に話しましょう。
舞さん、おやすみ」
(まだ二人になりたくない…)
気を利かせた二人はあっという間に連れだって和室に戻っていった。
突然二人きりにされ、さっきと同じくらいの緊張が襲い掛かってくる。
シンとしたリビングに謙信様の低い声が響いた。
謙信「……子を孕んだことをなぜ手紙に書かなかった?」
「…!」
名前はおろか口さえきいてくれないだろうと諦めていたから、投げかけられた言葉に感動してしまった。
でも感動ばかりもしていられない。
(ちゃんと答えないと)
私が手紙を書いた時、どういう気持ちだったかを。