第29章 時のイタズラ
少し緊張を残したまま、私はありのままの出来事を語った。
針仕事中に眩暈を感じたのが始まりで、生理予定日から出血があり、不自然に出血が続いたこと。
お茶の湯気に吐き気を感じ妊娠の可能性に気づいたこと。
二国間の関係がこじれるのを恐れ、迎えがくるまでは妊娠を隠そうと決心したこと。
謙信様と連絡がとれないまま悪阻が酷くなって弱りきり、ワームホールを頼りにするしかなかったことなど、順に説明した。
現代に戻ったらタイムスリップから3日しか経っていなかったことも。
「病院で診てもらったら双子を妊娠していました」
そう言うと何故か謙信様達は静かに息を吐いた。
現在は時短で服飾関係のアシスタントをしていること。
それだけでは収入が間に合わず、駅近にあった祖母の生家を取り壊し、契約駐車場にして収入を得ていると近況も伝えた。
時々佐助君が質問を挟んできて、抜け落ちそうになる事柄を掬いあげてくれた。
幸村の城から発掘された石碑についても聞かれ、一度盗まれて最近発見されたと教えると佐助君は『わかった』と深く頷いていた。
カップの中の柚子茶はすっかり冷めてしまっていた。
佐助「やっぱりそうだったのか」
軽く息を吐いた佐助君がポツリと呟いた。
「やっぱりって、どういうこと?」
佐助「朝食の片づけをした時に梅干しの容器に3年前の日付が書いてあるのを見たんだ。
君が帰ってきたのは少なくとも3年前。
安土に探りをいれて得た情報と、子供の声から歳を予想して…もしかしたら戦国時代にいるうちに妊娠したんじゃないかって仮説をたてたんだ」
佐助君の説明に疑問を感じた。