第29章 時のイタズラ
(はぁ、緊張した…)
信玄様とキッチンに入り、水を入れたやかんを火にかけた。
信玄「火をつけたら『かんきせん』を回すんだよな」
信玄様は佐助君に教わったのか換気扇を知っていて、間違える事なくスイッチを押した。
ゴーっという低い音をたてて換気扇が回り始めた。
「信玄様、緑茶やほうじ茶もありますが甘い飲み物もありますよ。
お酒もありますし、何がいいですか?」
信玄「ん?そうだな、君のおすすめの甘い物…にしようかな」
流し見る仕草が無駄に艶っぽい。
病気で痩せてしまっているのに以前と変わらぬ色っぽさだ。
(ホントに…困るくらい艶のある方だな…)
それどころじゃないのに、さっきまでの緊張が吹き飛び頬に熱が集まった。
「え、えっと、じゃあ、柚子茶にしましょう」
最近使いきったのを思い出して、床下収納から新しい柚子茶の瓶を取り出す。
信玄「へえ、こんな所に収納する場所があるのか」
信玄様は私にならってキッチンの床にしゃがみ込んだ。
会話は続いている。
でも大きな手が伸びてきて、私の手を包み込んだ。
「っ!?」
信玄様を見ると『しー』というふうに、人差し指を鼻の前に立てている。
信玄「本当の床下に繋がっているわけじゃないんだな。これなら食べ物を収納してもネズミや虫に食われる心配はない。
500年後の家は実に興味深いな」
信玄様は言葉とは裏腹に真剣な顔をしていて、不意に体を近づけてくると耳元で囁いた。
吐息がかかり、否が応にも耳が熱くなる。