第2章 夜を忍ぶ
謙信様は無言で目を逸らし、佐助君の体を布団に寝かせた。
体を動かす度に佐助君の顔が辛そうに歪む。
「そういえば関節や筋肉が痛いって言ってたんですよね」
謙信「ああ。特に背中が辛いと言っていた」
(背中…)
佐助君を横向きにして、布団を掛けなおしてから背中をさすってあげた。
佐助「う…ん」
少し嫌がる素振りを見せ、佐助くんの眉間にしわが寄る。
「以前、私もインフルエンザにかかったことがあって、熱のせいで背筋がゾクゾクするし、筋肉も痛くて仰向けになれなかったんです。
さすってあげて嫌そうな顔しているのは、そのせいかもしれません」
さする手を止めて布団を掛けなおす。
薬と水を飲ませた。後は様子を見るしかない。
「謙信様、薬が効き始めるのを確認するまで居させてもらってかまいませんか?」
謙信「無論そのつもりだ。夜明け前には城へ戻す」
忍び装束のままだった謙信様は、頭巾をとり、指先が出ている皮手袋のようなものを外し始めた。
佐助君に言われているのか口布はとらないままだ。
刀を背から降ろし、手にとった。
(いつも着物を着ているからわからなかったけど、謙信様ってスタイルが良いな…)
手首や足首、ウエストが羨ましいくらいに細い。
ヒョロヒョロに見えないのは鍛え上げられた筋肉と、しなやかな動きのせいだ。
(なんだろう。目元と手しか肌が見えてないのに色気を感じる…)
橋の下で抱きしめられたのを思い出して急に意識してしまった。
謙信「…舞」
「はいっ!?」
名前を呼ばれ、素っ頓狂な声をあげてしまう。
(名前を呼んでくれるなんて滅多にないから、声が裏返っちゃった!)
謙信様は囲炉裏の傍に置いてある座布団を指し示し『座れ』と言ってきた。
言われるままに座布団に座ると、謙信様が口を開いた。
謙信「薬の件は助かった。礼を言う。だが…」