第28章 秀吉さんがくれたハンカチ
(いけない!考え事してたから…)
しゃがんで手近に落ちている化粧ポーチやスマホを拾い集める。
何人もの人間がすぐ傍を通り過ぎていく。
(通行の邪魔になっちゃう。早くしなきゃ)
一番遠くに落ちたハンカチが風に吹かれて飛んでいった。
「あ、待って!」
薄地の布を翡翠色に染められたハンカチは、城の手伝いをしてくれた礼だと秀吉さんにもらったものだ。
軽い生地なので風にのって飛んでいく。
(どうしよう…待って!)
ハンカチは軽々と道路を飛び越え、信号待ちをしていた三人組の若い男女の元に着地した。
「すみません、そのハンカチっ!私のですっ!」
真ん中に立っていた男の人がハンカチを拾い、落とし主を探している素振りを見せたので声を掛ける。
歩行者用の信号が青に変わるのを待ち、急いで駆け寄った。
「はぁはぁ、す、すみませんじゃなかった。ありがとうございます!」
息を整える間もなく男の人にお辞儀をすると、その人の靴が目に入った。
(わ、お洒落な靴だな。素材はなんだろう)
デザイナーの端くれなのに、ぱっと見で素材がまるでわからない。
海外のデザインのようで、そうじゃない……本当に初めて見る斬新なデザインの靴だ。
男「あ……いえ、どうぞ」
戸惑いがちな声はまだ大人になりきっていない若さがあった。
頭をあげると目の前にハンカチが差し出されている。
「ありがとうございます。とても大事にしていたもの…なの…で……ぁ」
お礼を口にしながら視線を合わせると、不思議な感覚にとらわれた。