• テキストサイズ

☆一夜の夢☆〈イケメン戦国 上杉謙信〉

第28章 秀吉さんがくれたハンカチ


(姫目線)


「仕事、終わっちゃった…」


朝の出来事のせいで一日中気分が重かった。
家に帰りづらくて仕事が終わらなければいいとさえ思うほど…。

そういう日に限って時計の針が進むのは早く、あっという間に退社の時間を迎えた。

会社のエントランスを出るとムッとした熱気に包まれた。

8月になってもまだまだ日差しは強く、駐車場に向かうちょっとした時間でも汗が噴き出してくる。


暑気にあてられ、憂鬱な気分が増す。


「なんで誤解されたんだろう。訳を聞きたくてもあんなに逆上してたら聞けないよ。
 きっと二人が謙信様の子だって言っても信じてくれない…」


謙信様と瓜二つのたつきに会わせれば…と思うけど、朝の状態では子供達と引き合わせるという雰囲気じゃない。

朝、車の中で『ママが叩かれた』とゆりは泣いていたし、
何も見ていないたつきは『部屋にお泊りしているのは誰?』なんてキョトンとしていたけど、ゆりの様子を見て少し不安を持っているようだった。

そんな二人に、怒気をまとった謙信様を会わせることはできない。


「はぁ」


ナイフのように鋭い視線、発せられる殺気を思い出して身震いした。
まるで憎い敵にでも会ったかのようだった。

ずっと想っていた人にそんな風に見られ、悲しみだけが募る。


何故かわからないけれど謙信様の信頼を無くし、出会わなければ良かったとまで言われてしまった。


「出会わなければ良かった、か………」


(あの声と眼差し…)


胸がヒリヒリと痛んだ。


「そんなふうに思われるなんて……」


(出会いそのものを否定されるなんて悲しい…な)


お互い想い合っていたはずなのに、互いの間に深い溝が横たわり、どうしたら埋められるのかわからなかった。

歩み寄りたいのに…。

無理に歩み寄ったら最後、足を踏み外して溝に落ちてしまいそうだ。


「謙信様…」


愛しい人の名を呼ぶ。

こんなに近くに居るのに。
時を超える奇跡を起こして近くに来てくれたのに。

謙信様は二度と私の名を呼んでくれない気がした。

時がお互いを隔てていた時よりも、今の方がずっと距離がある。


「あっ!」


ヒールがマンホールの穴に引っかかり体勢が崩れた。

ガクンと視界が揺れ、転倒は免れたもののバッグの中身が派手に散らばった。


/ 1735ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp