第26章 不義
信玄「謙信、落ち着け!」
佐助「謙信様、気持ちはわかりますが落ち着いてください!」
「っ」
佐助君の言葉にさらに追い詰められた。
(気持ちがわかる…?謙信様が怒っている理由に佐助君は同意してるってこと?)
戦国時代では敵同士の立場にいても味方だと言ってくれた佐助君が、今の状況では謙信様に同調しているらしい。
昨夜は穏やかに話をしてくれた信玄様の顔も厳しい。
(私が悪い…?勝手に姿を消したから…?)
寺に預けられた手紙には姿を消したことについて理解を示してくれていたように思っていた。
何が起きたか理解できず、説明もなく、ただこの部屋に私をかばってくれる存在が居ないことだけはわかった。
最早部屋の中は乱れに乱れ、収拾がつかなくなっている。
「なぜ…」
『そんなに怒っているのですか』
そう聞きたいのに言葉が出てこない。
謙信「何故…だと?」
火に油を注いだように謙信様の表情が険しくなる。
ふり乱れた髪が揺れ、なおも佐助君の腕を解こうとしている。
(駄目だ、この場をおさめるには茫然としているだけじゃ)
傷つけられ、追い詰められた精神状態で頭を無理やり回転させた。
壊れた歯車が軋み音をたてて回りにくいように、私の頭もよくわからない何かがガンガンと鳴り響き、雑然とし、考えが回らない。
(ふぎ…。不義の子なら時代劇で聞いたことがある。
なんだっけ。確か……不倫とか、そんな関係で生まれた子だよね)
『不義をはたらいた』謙信様はそう言った。
「っ!?」
息が止まった
(そんなっ……そんなことない!)
謙信様が誤解している事にやっと気が付いた。
それと同時にやっぱり『何故』と思う。
(あんなに深く愛し合ったのに、もしかしたら子供の父親が自分じゃないかって考えないの?)
(なんで最初から謙信様以外の人の子だって考えるの?)
謙信様の言動が理解できなかった。
自分以外の子だと思い込んでいるのが堪(こた)えた。
(謙信様だけを愛するって言ったのに、謙信様は…私を信じてくれ…ない…の……?)
心臓が締め付けられているように苦しい。
上手く息ができない…久しぶりに呼吸が乱れた。