第25章 3人で…
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3人は馬を替えるために野原に降りた。
馬をかえるのはこれで最後だ。
1人の軒猿が使われていない家屋の傍で狼煙をあげながら待っていた。
佐助が牧に言伝を頼むと軒猿は去っていった。
この辺りは土が痩せている地域で、この家屋以外は野原が広がっている。
謙信と信玄は寝たきりだったにもかかわらず武将としての意地なのか、培った気力がモノを言ったのか、休まず走り続けた。
謙信「佐助」
鞍を移し替えている佐助に謙信がフラリと近づいた。
佐助「なんですか、謙信様」
謙信「腹がすいた。喉が渇いた」
心底そう感じているようで謙信は胃のあたりをおさえてしかめっ面をしている。
それもそのはず。ここ数か月、謙信は最低限の食事と水分しかとっていなかったのだ。
何時間も馬を走らせ続ければお腹がすくのは道理だ。
まるで幼子のような要求をする謙信に、眼鏡の奥で佐助の目が嬉しそうに瞬いた。
空腹を感じるということは謙信の身体が目覚めた証拠だ。
佐助「すみません。そういうと思って幸村にお弁当を作ってもらっていたのを失念していました」
佐助は自分の荷物に手を入れてごそごそ動かしている。
佐助「これが謙信様の分です」
小さい弁当箱と竹皮に包まれた大きな握り飯。水が入った竹筒を渡す。
謙信「なぜ幸村が弁当を作った?」
佐助「それはもう謙信様と信玄様の食の好みを誰よりも知っているのは幸村だからです」
謙信は鼻先で笑うと食べ始めた。
佐助はもう一つ弁当を手に取ると、死んだように休んでいる信玄に近づいた。
佐助「信玄様、幸村特製弁当です。食べられそうですか?」
信玄「正直食欲はないが、せっかく幸が作ってくれたなら少し摘まむとするか」
信玄が弁当の蓋を開けると、
信玄「ふっ、わかってるな」
佐助「さすがですね」
謙信「……それは最早弁当ではないだろう」
弁当の中には餡がぎっしりと詰まっていそうな饅頭が、我が物顔で鎮座していた。
信玄「ははっ、幸のやつ。俺には煮物ひとつ作ってくれずに饅頭だけか」
嬉しそうに饅頭を口にした信玄だったが、やはり調子が戻らないのか半分程食べたところで止めてしまった。