第2章 夜を忍ぶ
謙信「どうやら気づかれなかったようだ。
いつまでそこに座っているつもりだ、あがれ」
「はい。ここまで連れてきてくださってありがとうございました。たくさんご迷惑をかけてしまってすみませんでした」
謙信様一人なら、もっと早くここに着けたはずだ。
何回も担いでもらったし、走る速さも合わせてくれたと思う。
私を連れ歩く事で見つかる確率も高くなるだろうし、深く考えず『私も連れて行ってください』とお願いしたのを後悔した。
謙信「ふん。多少お荷物が増えたところで問題ない。
それに女にしては悪い動きではなかった」
「え…?」
聞き返したけど謙信様はそれ以上言わず、部屋にあがっていった。
地下足袋を脱いで部屋に上がらせてもらった。
お鍋の中にはお湯がクツクツと沸騰していて、謙信様はその鍋に水を足している。
謙信「常に湯を沸かし、蒸気が部屋にいきわたるように佐助が言っていたが、合っているか?」
火箸で炭の位置を調整しながら謙信様が訊ねてきた。
「はい。インフルエンザだとしたら、それで合っています。
空気が乾燥すると感染力が強まるんです。
時々窓を開けて空気を入れ替えてくださいね」
答えながら佐助君の傍に寄る。
囲炉裏の傍に寝ているのに、近くに火鉢が置いてあった。
謙信様は窓を数か所開けた後、火鉢に炭を足しながら言った。
温まっていた部屋に外の空気がヒンヤリと流れ込んでくる。
謙信「囲炉裏と火鉢で温めてやっても、佐助は酷く寒気を訴えていた」
淡々とした口調で説明しながら佐助君の様子を見ている。
「佐助君」
小さな声で呼びかけてみたけれど、返事はない。
眼鏡を外して仰向けで眠る佐助君に手を伸ばした。
(凄く熱い!)
首元に触れた指が、佐助君の異常な体温をとらえた。
布団の中に手を差し入れてみると、佐助君の体温がこもって熱くなっている。