第25章 3人で…
佐助「謙信様っ!」
佐助が庭から回って謙信の部屋にたどり着くと、謙信は廊下に出て月を眺めていた。
虚ろにユックリと向けられた目には生気がない。
月を見あげていても何も見ていなかったのだろう。
夜着から覗く体には骨が浮いて見えた。
謙信「佐助か、何故城を出てきた?城の方がお前を守りやすいと置いてきたのに何かあったら…」
低い声で呟く謙信を無視して、佐助はゆっくり、はっきりと伝えた。
佐助「ワームホールが開きます。すぐに向かわなければ間に合いません」
謙信「……それは真か?」
佐助は力強く頷いた。謙信の目は虚ろなままだ。
佐助「嘘でも夢でもありません。急いでください」
謙信はまだ夢の中にいるような顔をしている。
謙信「ワームホールが開く…」
ポツリと呟いた力ない声が空に消える。
佐助「ええ、ワームホールが開きます。着替えましょう」
理解できていない、そんな表情の上司に言い聞かせるようにして佐助は部屋の中へ促す。
謙信がいつも着ていた着物と袴、羽織を着せていく。
灯りのともっていない暗い部屋で、シュルシュルと衣擦れの音だけが響いた。
佐助「謙信様、刀はどうしますか」
弱った体は着物と羽織だけでも重そうに見える。
代わりに持とうかと提案したが謙信は断り、自分の腰に刀を下げた。
謙信「重い…な。すっかり体が鈍ってしまった」
自嘲して笑う唇はカサカサに乾ききっている。
だが先ほどよりも自我を取り戻したように見えた。
佐助「あちらに行ったら一緒に鍛錬しましょう。俺もずっと引きこもっていたので運動不足なんです。
舞さんに美味しいモノをたくさん作ってもらえばすぐに元に戻りますよ」
舞に手料理を作ってもらう。
想像しやすい具体的な言葉に、謙信はワームホールが開く実感が湧いてきた。