第23章 1%を100%に
義元「違うよ、謙信。彼らは君にお礼を言っていたよ。名など残らなくても、懸命に作った自分の品が先の世まで残るかもしれない。
それだけで充分だと。そういう機会を与えてくれてありがとうってね」
謙信「そうか…お前の周りに居る人間は無欲だな。
先立つものも必要だろう。直ぐにでも報酬の手配をして礼状を送る。
それと寺の記録簿にこの文面を加えて、この箱を寺に就任する住職に託して欲しい。
必ず秘匿とし代々継承するよう伝えてほしい」
義元「代々…?わかった。必ず伝えるよ」
文面にざっと目を通した義元は物問いたげな顔をしたが、唇を引き結び一切何も聞かなかった。
謙信「これで俺の望みは全て託した」
謙信は満足したように表情を和らげた。
全てやりつくし、儚く消えてしまいそうな気配に義元は謙信の身を案じた。
義元「話は変わるけど信玄の様子はどう?ここの女中に頼んだら面会を断られたんだけど」
寺の話を報告し終え、義元が信玄の具合を聞いた。
和らいでいた謙信の表情に暗い影が落ちる。
謙信「相当参っているな。あとひと月もつかどうかと医師に言われている」
義元「そう…幸は知ってるの?」
謙信「ああ、知らせてある。傍で世話をしたいと言っているそうだが信玄が断っているようだ」
義元「信玄と幸村が春日山を離れたら家臣達をまとめる者がいなくなるからね。
それに信玄のことだから弱った姿を見られたくないんだろう」
義元が憂い顔でため息を吐いた。
義元「そういえば近いうちに景勝が君の様子を見に来るって言っていたよ。
じゃあ、俺はこの足で安土へ向かう。しばらくあちらで指揮をとるつもりだから何かあったら文を寄こして。
謙信も体を治して安土まで見においでよ?」
当分は無理…いや、もしかしたら信玄に続いて謙信も…と危惧しつつ義元は別邸を後にした。