第23章 1%を100%に
(第三者目線)
義元「久しぶりだね、謙信」
謙信と信玄が療養している別邸に義元がフラリと姿を現した。
『通り雨にやられたよ』
そう言って、湿った気配さえ香り立つ色気に変えて謙信の部屋に入ってきた。
義元「調子は…あまり良くないみたいだね」
謙信の暗く虚ろな目と痩せた体を見て義元の顔が曇った。
最後に城で打ち合わせした時よりも酷くなっている。
義元は重い空気を払うように懐から紙を取り出した。
「今日は良い知らせを持ってきたんだ。
寺の建設だけど6日前から木材の搬入が始まったよ。予定通りであれば今月中に搬入作業は終わるはずだ。
それと石像の話だけど最終的にこれで良いか確認してほしい」
謙信「……」
職人が描いた絵には水から上がって休んでいる龍と安らいで寝ている兎が緻密な線で書かれている。
兎の手には鈴が握られており謙信の要望が全て反映されたものになっていた。
仄暗かった謙信の目に久しぶりに明るい光が戻り、一心にその絵を眺めている。
義元「その職人が彫った品はね、生きて動き出しそうなくらいなんだよ。
なかなかのモノに仕上がるんじゃないかと俺も楽しみにしてる」
絵を見て生気を取り戻した謙信を励ますように義元が言った。
義元「その絵、良かったら置いていくよ。
あと、これが今回寺の建設に携わる者達だ。人数が多いから連名にしてある。
寺を作った人物を特定されないよう、この者達には作品には一切名を刻まないように言ってある。
寺の記録簿にも名を載せるつもりもないと説明して、それでも良いと言ってくれた者達だ。
謙信だけでも、この者達の名を知っていて欲しい」
謙信「作品を作らせるだけ作らせて、名を残す機会を与えてやれなくてすまないと伝えてくれ」
謙信は連名で書かれている顔も知らない職人達に詫びたが、義元は横に首を振った。