第23章 1%を100%に
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幸村「しかしあの謙信様が女一人でああなるなんて意外だったな」
佐助「そうかな。部下にでさえ深い愛情を注ぐ謙信様だ。
愛する人が現れたら心底愛するだろうと俺は思っていたけどな。
過去からやっと抜け出し、これからっていう時に失ってしまったんだ。その喪失感ははかり知れない」
おにぎりを食べ終え、お茶を飲む。
幸村「でもこのままワームホールが開かないっていう可能性の方が高いんだろう?
謙信様はどうなっちまうんだ?」
佐助「……あまり考えたくないな。栄養失調と睡眠不足、筋力低下。心身共に衰えていく一方だ。
手遅れにならないうちになんとかしたいとは思うけれど…」
空になった湯呑を置いて溜息をつく。
そもそもワームホールは自然発生していた現象で、どうにかして開くものではない。
(謙信様のためになんとかしたいけど…手がない)
幸村「お前がこんなに計算しても開かないっていう結果なんだろ?あとは神頼みするしかないか」
佐助「神頼みか…」
幸村「……」
お互い暗い顔をしているのは分かっている。もうやれる事がみつからない。
沈んだ気持ちで計算式が書かれた紙を手に取った。
この計算式をベースに、星の観測やその他様々なデータを入力して発生率を出していくのがいつものやり方だ。
佐助「……」
この計算式を作り出したのは、初めてタイムスリップした本能寺跡の約半年前だった。
割り出した場所や時間を幾度か訪れてみたけどワームホールが開いた試しはなかった。
割り出した確率は15%以下が普通で、ワームホールはそれくらい不確実なものなのだ。
(発生確率が低かろうと、次のワームホール発生予定地に行ってみるべきか?
いや、変な期待を持たせて発生しなかった場合、謙信様の心が折れてしまいかねない)
(そういえば…)
『発生確率が低い』で考えると本能寺跡で開いたワームホールの確率は一桁台だった。
当てにしていなかったのに開いたため、あの時の戸惑いと嬉しさは忘れがたいものだった。
(あの時の発生確率をもう一度確かめてみるか。何かわかるかもしれない)