第23章 1%を100%に
手紙の件以来、謙信様にはワームホールの発生確率を定期的に知らせていた。
しかし何度繰り返そうが、その数値がはかばかしくない。
一見、平静に見えていた謙信様だったけれど、時が経つにつれて徐々に変調をきたしていた。
日中は変わらず公務をこなして上杉家をとりまとめていたが、夜は眠らず明け方まで空を見上げている姿が目撃された。
あれほど好きだった酒を飲まなくなり、家臣達が気を利かせて開いた宴には冒頭のみ参加して席をたってしまう始末。
食も細くなり、一人で何か考え込んでいる謙信様を春日山の誰もが心配していた。
人間が生きるための行動を投げだし、その表情は物憂げで虚ろだった。
近寄りがたい雰囲気に磨きがかかり家臣達は誰も話しかけられなくなってしまった。
そんな折、景勝様と軍議に姿をみせた謙信様は、
謙信「城主を正式に景勝に任せる」
と言い放ち、集められた家臣達からどよめきが起こった。
4年前に自身の墓を建てて表向き城主を退いていたけれど、政務も戦も謙信様が取り仕切っていたのが本当のところだ。
それを正式に譲ると言ったものだから家臣達の驚きといったら、それはもう蜂の巣をつついたようだった。
家臣達のどよめきはいつまでも止まず景勝様が一喝して場がおさまった。
家臣1「いったい謙信様はどうされたのだ?まだまだお若いというのに」
家臣2「景勝様に不満があるわけではないが謙信様が城主を退く、はっきりとした理由がわからなければ納得できかねる…」
家臣3「この間のご正室の件と、関係があるのだろうか」
家臣1「ご正室に迎えたいと言っていた女性と、何かあったのだろうか…」
心配する家臣達の声はやまず、しかし謙信様は黙したまま部屋にこもっている。