第23章 1%を100%に
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義元「謙信、君が言うとおりに設計しなおしてもらった。外観は大体こんな感じになるそうだよ。
廃寺の解体、撤去作業は終わったよ。使えそうなものはそのまま現場に残してある。
あと新しい木材の方は西国より徐々に集め始めているよ」
寺の建築準備のため、春日山城を留守にしていた義元がひと月ぶりに帰ってきた。
おっとりした物腰で進捗状況を説明しながら、寺の見取り図と、外観となる絵を見せた。
義元「植木職人からは庭園を造りたいっていう声もあったんだけど水場周辺は平坦にして石を敷き詰めるだけで良いんだよね」
謙信「ああ。水場に限っては凝った造りは不要だ。
寺の中なら多少凝っても良いが品を損なう華美な装飾はやめろ」
謙信は義元から受け取った2枚の紙にざっと目をやった。
義元「わかってるよ。一見質素に見えるけど、実は凝っているっていうのが謙信の好みでしょ。それは職人たちにも伝えてあるから安心して。
それで池の中央に置く石像の話なんだけど案はまとまった?」
謙信「…このようにしたい」
義元が謙信から受け取った紙にはよくわからないものが書かれていた。
義元「………」
(これは蚯蚓(みみず)?それにこのネズミのようなものはなんだ?
正直に謙信に聞いた方が良さそうだね)
義元が扇子を優雅な所作で開いた。
扇子を揺らすと焚き染められた香がふわりと漂う。
義元「謙信。達筆すぎると字が読みにくいと言われるように、絵も上手すぎると何が描いてあるかわかりにくいものだよ。
これは何を表しているか聞いても良いかい?」
謙信「回りくどい言い方をするな。それは龍と兎だ」
何か言われると覚悟していたのだろう。
謙信が不機嫌そうに答えた。
扇子で隠した義元の口元が柔らかに微笑む。
義元「へぇ、龍と兎ね。それでどんな感じにしたいの?」
謙信「龍の体は……目は…」
義元「うん、できるか聞いてみるよ。兎の方は…」
謙信の希望を義元が質問を挟みながら書き留めていく。
城の外で葉桜が風に揺れていた。