第2章 夜を忍ぶ
そうしている間にも橋の上では巡回の人達の怪しむ声が聞こえていた。
巡回1「…気のせいか?」
巡回2「魚が跳ねたんじゃないのか?」
松明の光が川面を照らして、不審な者が居ないか探っているのがわかる。
(どうか橋の下まで来ませんように!)
謙信様に縋り付いてしまいたくなる恐怖に必死で耐える。
いざという時に謙信様の動きを鈍らせないように。
両手を胸の前でギュッと握り、目を閉じる。
(今できる事は息を乱さないこと。物音をさせないこと)
守るように寄り添ってくれている体温だけで充分だと言い聞かせる。
(大丈夫、絶対)
そんな時、足音が複数近づいてきた。
巡回3「どうしたんだ、橋を見下ろして」
??「何か不審な点でもありましたか?」
男の人にしては少し高めの声を耳にして、体がピクンと跳ねてしまった。
(……三成君だ!)
閉じた瞼の裏に、にこやかに笑う三成君の顔が浮かんだ。
『舞様、困ったときは頼ってください。約束、ですよ』
安土に来たばかりで不安だった頃、あの言葉をかけてもらって、どんなに救われたことだろう。
(理由がどうあれ、三成君を裏切っている…)
ジワリと涙が浮かび、思わず謙信様の胸に顔をうずめてしまった。
謙信様の体がピクリと動いた。
(あ……)
謙信様の両腕が動き、私を包み込むように抱きしめてくれた。手のひらは両耳を覆っている。
まるで『何も考えるな、聞くな』と言ってくれるようだった。
(謙信様…)
優しさに触れ、悲しさに押しつぶされそうになっていた気持ちが温かく包まれた。