第22章 真夜中のチャイム
「…あんな状態って、どんな?」
薄々予測はできたけど、直に見た信玄様の口から聞きたかった。
信玄「突然謙信が別邸を訪ねてきて『今日から俺もここに住む』って言うんだ。
別人かと目を疑ったよ。
ふた月見ないうちに大分やせ細っていた。青白くやつれた顔をしていて目が死んでいて、何かに憑りつかれた様相だったよ。
どうしたのか聞いても会話がかみ合わなくてな……佐助が『舞さんを失って、心の病にかかっている』と言っていたが言い得て妙だと思った。
幸い謙信は以前墓を建てて表向きは春日山城主を退いていた。少々揉めたらしいが正式に城主の座を景勝に譲ることで政は滞ることなく済んだそうだ。
しかし戦の士気だけは謙信が不在ではなかなか上がらず皆が困っていたらしい」
「戦が好きな謙信様が戦に出なくなってしまったんですか?」
信長様に『戦狂い』とまで言われていた謙信様が、刀を振るのをやめてしまうなんて信じられなかった。
信玄「謙信は刀を持てなくなるくらい衰弱していたんだよ。
刀はおろか立ち上がる時ですら介助を必要としていた。
君をただひたすらに想い、恋慕い、日々弱っていく…あんな謙信、見ていられなかったよ。
上杉謙信の牙を折ったのは…君だよ。舞」
信玄様の大きな手が私の頬に触れた。
そうされてはじめて自分が泣いていると気づいた…。