第22章 真夜中のチャイム
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「どうぞ、お茶です」
謙信様と佐助君の傍に座っている信玄様にお茶を出した。
壁掛け時計は深夜の2時をさしている。
「ああ、ありがとう」
信玄様は優雅な仕草で湯呑を持ち上げて口へ運ぶ。
その仕草が懐かしい、と思った。
安土の武将達もそうだったけれど何気ない仕草がとても洗練されていたのを思い出した。
現代の人、特に若い世代の人にはない優美な仕草だ。
信玄「やっと落ち着いた。姫も夜更けに大変だったな」
一息つく姿も私を見る視線も色気を含んでいてドキリとする。
(あ、相変わらず信玄様は大人の色気が…)
急に寝ぐせが付いた髪と化粧っ気のない顔が恥ずかしくなる。少し俯いて気持ちを落ち着かせた。
「いいえ、たいしたことはできませんでした。
それよりちゃんとご挨拶もできず、すみませんでした。
ずっと…お待ちしておりました」
畳に手をついて頭を下げた。
信玄「姫、堅苦しい挨拶はなしだ。
元気な姿を見られて安心したよ。死にかけていたと聞いたから…」
信玄様の大きな手が私の手をとった。頭をあげると優しい眼差しと目が合った。
「ええ、かなり危険な状態でしたが、こちらで治療してなんとか事なきを得ました。
でもそのおかげで謙信様を一人にしてしまいました。
私が居なくなった後の謙信様の様子を知り、申し訳なくて…あの時代に戻りたくて…でも無力な私は何もできませんでした」
信玄「こちらに来なければ命を落としていたんだろう?
謙信と連絡がとれなくなったのは予想外の出来事だったし、それにワームホールというのは自然現象に近い代物だと聞いた。
仕方なかったと俺は思うよ。まぁ謙信が起きたら何と言うかはわからないけどな」
信玄様は謙信様の顔を見る。
謙信様は青白くやつれた顔をしていて全然目を覚ます気配がない。
隣に寝ている佐助君も同じで、このまま家で寝せておくだけで良いのか心配になった。
信玄「今回開くワームホールはかなり不安定だと佐助が言っていた。
ワームホールの中の様子も佐助から聞いていたのとは違っていて、まるで大風が拭き乱れる嵐の中のようだった」
「そうだったんですか…」