第22章 真夜中のチャイム
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「信玄様っ!よくご無事でっ…」
信玄様は以前お会いした時よりもだいぶ痩せてしまっていた。
持病の悪化で医者が匙を投げたと書いてあったのは事実なのかもしれない。
信玄様は濡れた畑に胡坐をかいて座っていて、膝の上には佐助君がうつ伏せで倒れていた。
(あれ、謙信様はっ!?)
察した信玄様が右手の親指をたてて後ろを指した。
回り込むと信玄様の背に寄りかかって眠る人が居た。
もう二度と会えないと思っていた愛しい人が…。
「あ………けん…しん様…っ!」
存在を確かめたくて手を伸ばした。
信玄様も痩せたけど謙信様もとても痩せてしまっていた。
印象深い瞳は固く閉じられている。
色素の薄い髪が風に揺れて、とても儚げに見えた。
(生きてくださったんですね、謙信様。
生きて、私を追いかけてきてくださった!)
月光に照らされ青白い頬は触れてみると濡れていて冷たかった。
「っ……」
視界がみるみる曇る。
(まだ……泣いちゃ駄目だ)
服の袖で涙をゴシゴシ拭いて立ち上がった。
これ以上ここに居れば沢田さんに不審に思われてしまう。
信玄様に聞きたいこともあるし謙信様を抱きしめたいけど…今はやるべきことがある。
「信玄様、すぐ家に案内しますね。少し待っていてください」
信玄「ああ、わかった」
沢田さんに向き直った。
「沢田さん、知らせてくださってありがとうございました。
3人は私の友達です。その…畑を荒らしてしまってすみませんでした。後でお詫びします」
頭を下げて謝る。
植えられていたナスがあちこちに倒れて、綺麗にならしてあっただろう土も乱れている。
沢田「ああ、このくらいなら平気だよ。イノシシが出た時のほうがひでえくらいだしなっ!
おにいちゃん達、酒に酔っぱらって畑で寝んのはやめとけよ!」
沢田さんは謙信様達が酔っぱらって畑で寝てしまったと思っているらしい。
「車を持ってきて3人を乗せますので、もう少しだけ寝かせておいてください。
本当にご迷惑をおかけしてすみませんでした」
(あとで沢田さんが好きなお酒をもってお詫びに行こう)
沢田さんにもう一度頭を下げて、急いで家に走った。