第20章 上田城の石碑
「佐助君が無意味な伝言をくれるはずないよね。
信じてやってみよう」
500年後の私に伝わるように、きっとあの手この手で石碑を作ってくれたに違いない。
(幸村も手伝ってくれたんだね)
安土城下で一緒にお茶をしたくらいしか接点はなかったのに。
ぶっきらぼうで口が悪いところもあるけど、お店で一番のおすすめを渡してくれたり信玄様の身体を凄く気遣っていた。
きっと思いやりのある人なんだろうな。
(佐助君、幸村、ありがとう)
立ち上がって縁側へ向かう。
履物を履いて外に出ると月が見えた。
昨日満月だったので今夜は少しだけ欠けている。
「どうかワームホールが開きますように。
どうか謙信様達が無事にこちらに来られますように」
ふと雪原でのことを思い出し、ある疑問が湧いた。
「そういえば……あの広い雪原でワームホールが真上に現れたのって偶然?」
佐助君にワームホールが開く場所は聞いていたけれど、サッカー場のように広い広場で、たまたま真上に発生するなんておかしくないだろうか?
ワームホールがズレて発生する可能性がはるかに高いのに何故……。
「なんでだろう、なんであの時ワームホールが真上に来たの?」
必死に当時を思い出す。
信長様にあそこに降ろしてもらったのは偶然だった。
降り出した雨は雪原全体に降り始めた。
雷が聞こえた時…私は何かした?
(私は何もしなかった。動けなかったんだから。
あ…でも、願ったんだ)
『私はここに居るから、迎えに来て』
「他の場所に発生しても動けないから、あの時強く願ったんだ。
強く願ったからワームホールが真上に開いた?」
偶然?
それとも石碑の通り願えば本当にワームホールが開く?
(なんの確証もないけど、可能性があるなら……)
「謙信様がそちらで祈ってくださっているのなら私も今日から毎日お月様にお願いしますね」
私の願いを受け取った月は、物言わず、ゆっくりと西へ動いていった。