第20章 上田城の石碑
そんなある日、龍は戦場に迷い込んだ一匹の兎をみつけました。
龍は震えて怖がっていた兎を背に乗せ城へ連れ帰りました。
ともに城で過ごすうちに兎は龍の心の傷に気が付き、それをいとも簡単に治してしまいました。
龍はか弱い兎が傷を治した事に驚き、そして兎を傍に置いて愛するようになりました。
龍の苦しみに密かに気が付いていた周りの者達は、苦しみから解放された龍を見て安堵し2匹をそっと見守っていました。
平和な日々が続いていたある日、龍は兎を国に残して出かけていきました。
ところが帰ると兎の姿はなく文が残されていました。
文にはどうしても国へ帰らなくてはいけないと書かれていて、城の者達は『兎は光の道を通って空へ帰っていった』と口を揃えて言いました。
龍は悲しみ兎を探しました。
しかし天駆ける龍といえども天上の国までは飛んで行けず、何度も飛び上がっては地に身を打ち付けていました。
そうしているうちに龍の体は酷く傷ついて動けなくなってしまいました。
うずくまり、それでも恋焦がれた龍はのたうち回りました。
兎に癒してもらったはずの傷が再び開き、心が渇いてどうしようもなく、日々弱っていきました。
天上に帰った兎は龍の様子を知り涙を流しました。
兎も龍を愛しく思っており、一緒に居たいと願いました。
それからは毎日、月の神様へ『光の道を通してくれるように』とお願いしました。
龍はその事を知る由もありませんでしたが、毎日月を見ながら『光の道がいつか通りますように』と願っていました。
やがて龍の命が風前の灯火となった時、部下の男が歩み寄りました。
『光の道が開きます。どうぞお急ぎください!』
死んだように臥せっていた龍は途端に目を輝かせ、国を後の者に任せて疾風の如く城から飛び去って行きました。
それから龍を見たものはおらず『愛しい兎の元へ行けたのだろう』と人々は言い、その幸せを願ったということです』