第2章 夜を忍ぶ
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真っ暗な道を走る。
曇って月が隠れているのかと思っていたら、今夜は朔(新月)だと教えてくれた。
一緒に飲んだ帰り道も真っ暗だったなと思いながら、ひた走る。
謙信様が走った所を辿れば足をすくわれないだろうと気をつけたけれど、それでも見えない足元は何かにつまづくこともあって、その度に力強い手が私を救ってくれた。
見回りの松明が段々近づいてきた。2~3人が一組になって見回っているようだ。
建物の陰に身を隠し、謙信様が呟いた。
謙信「あそこの橋が厄介だ」
謙信様が見ている方向を見ると、私が城下で買い物をする時に必ず通る橋があった。
城下から城へつながっている橋なので巡回が頻繁にあることと、こちらから見ると右手の視界が悪く見回りが迫っていてもわかりにくいという。
(じゃあ橋を避ければ…)
と思ったけれど、背の高い草が生い茂っている土手が目に入った。
(あそこを通ったら草が揺れてすぐみつかりそう…)
川幅も広く、泳いで向こう岸に行き、草ぼうぼうの土手を見つからずに駆け上がるのは至難の業だ。
その点、橋の下は大きな中州があり、水深は浅そうだ。
(でも謙信様は足元汚れていなかったよね)
謙信「声を掛けたら走り出すぞ」
いつでも走り出せる姿勢をとって、謙信様は橋の向こうを伺っている。
(やっぱり!謙信様だもの、橋の下をコソコソ通らず普通に橋を渡ってきたんだ!)
ごくっと唾を飲んで、その時を待つ。
朔の夜のおかげで橋を伺う間、見咎められることなく潜んでいられた。
巡回の松明が見えなくなったタイミングで声が掛かった。
謙信「行くぞ。すぐに次が来る。急げっ」
走り出し、体や顔は前をむいたまま、謙信様の右手がこちらに差し伸べられた。
リレーのバトンを渡す瞬間を思い出しながら、その手を取り走った。
(こんな時まで手を差し伸べてくれるなんて、嬉しいな)
足手纏いになりたくない一心で、全速力で橋を駆けた。
ところが橋の真ん中まで来た時、松明の明かりが死角だった場所から突然現れた。
(嘘っ!?次の巡回にしては早い!)
駆け戻ろうにしても橋の真ん中まで来てしまっているので、どう頑張っても見つかってしまう。
頭が混乱して次の行動が思いつかない。