第2章 夜を忍ぶ
ずっと担がれていたので少しクラクラする。
開けて良いのかわからず目を閉じたままでいると、つっと目元をなぞられた。
目を開けると目の前に謙信様が立っていて、すぐ傍には城壁があった。
(無事にお城を出られたんだ!良かった)
安堵するも束の間、謙信様が遠くを指さす。
「?」
月が出ていないので遠くは見えないけれど、くっきり見えるものがあった。
(あれは松明…?夜中も城下を見回っているってことか)
オレンジ色に光る火が、幾つも動いている。
(…こんな姿で夜中にうろついているのが見つかったら不審人物で捕まっちゃうよね)
この時代、夜中に出歩く人は居ない。
基本的に日が落ちる前に皆家に帰り、蝋燭や油を無駄に使わないように早めに寝てしまう。
出歩いているのを見咎められたら、良からぬ目的があると思われても仕方がない。
謙信様が耳元で囁く。
(っ!何回されてもドキドキする)
耳元に口を寄せられる度に謙信様の香りがして、屈みこむ無駄のない動作に鼓動が跳ねる。
そんな私の気持ちも知らず、謙信様は至って平常運転だ。
謙信「ぬかるなよ。今夜の見回りは石田三成とその部下共が担っている」
「三成君が…」
心臓がドキリと音をたてる。
(秀吉さんの時もだったけどお世話になってる人に近づく度に、すごく申し訳ない気持ちになるな)
でも佐助君を助けたい気持ちがそれを上回る。
「はい、頑張ります。私を連れて行ってください」
騒ぎ出しそうになる心臓を押さえつけるように胸に手を当てた。
謙信様は背中にある刀の位置を確かめてから、私の方へ手を伸ばした。
その刀の出番がきませんようにと祈りながら、謙信様の手をとった。