第20章 上田城の石碑
私の枕元にはいつも謙信様の人形が置いてある。
刀を抜いてニヤリと笑っていて、その顔に『おやすみなさい』と言って寝るのが日課になりつつある。
ぬいぐるみを完成させた後は、ほとんど謙信様への着物を縫っている。
コツコツ縫い上げて完成した羽織や着物、袴は、あのお寺に持っていき千手観音像の前に納めている。
いま縫っているのは謙信様の夏用の夜着だ。
あの文は私が去ってどれくらい後に書かれたのかわからないけれど、春、夏、秋、冬、と一つずつ季節を乗り越えていて欲しいと願って、季節に合わせた物を縫ってはお寺に持って行っている。
生きて欲しいと願って…。
手を休め、ふと見ると二人の笹飾りが目についた。
近くにあったデザイン帳から一枚破り、短冊の大きさに切って願い事を書いた。
『謙信様に会えますように』
ゆりとたつきの笹の葉を少しずつ引っ張って、二つの笹の間に短冊を下げた。
「前は1年に一度しか会えないなんて嫌だなって思ったけど、今は1年に一度でも会えるなら羨ましいな」
気を取り直して縫物を進める。
この夜着もあと少しで縫い終わるだろう。
次は何を縫おうか、そんな事を考えているうちに夜は更けていった。