第19章 謙信様の手紙
住職「…信じがたいですが、信じざるを得ない話です。
あなたが話してくれた内容はどこにも綻びがありません。
あんなに具合が悪かったあなたがどうして忽然と現れたのか。
織田の家紋がはいった冬用の外套を羽織っていたのを私は見ていますし、さっきの鈴の話といい、つじつまが合っています」
「っ、ありがとうございます。一人で抱えているのが辛くなってしまいました。
ご住職のおかげで気分が軽くなりました。どうかこのことはご内密にお願いします」
住職「ええ、それはもちろんですよ。
この寺の住職を務めたのも何かの縁です。墓まで持っていきましょう。
しかしこのお二人は生涯不犯を誓ったとされている上杉謙信の実子なのですね」
感慨深くご住職が呟いた。
「はい。ゆりは私に似ていますが、たつきは謙信様によく似ています。
謙信様は歴史の教科書で見るお姿とは全然違い、若々しく、刀のように鋭い雰囲気をお持ちでした。
心の内もまっすぐで義理堅く…本当に素敵な方でした」
謙信様のことを教えようとして胸が熱くなった。
思い出すと愛おしすぎて……苦しい。
伊勢姫様を思い出して辛そうにしていた謙信様は、きっとこんな痛みを感じていたからに違いない。
愛しすぎて思い出すのも辛いなんて、初めての経験だった。
住職「そうですか。しかし上杉謙信といえば…あ、お聞きになりますか?彼の最期を」
私は首を横に振った。
「いいえ。私は謙信様に2年くらい前に会っているんです。
この手紙を読んでも私の中では生きているんです。
踏ん切りがつくまでは謙信様をはじめ、お世話になった武将達の生涯も調べないようにしているんです」
住職「そうですか。わかりました。
この寺にはいつでもお越しください。この寺はあなたのために建てられたのですから」
「ありがとうございます」
そうして謙信様からの文を受け取り家路についた。
謙信様が苦しんでいる。
その事実を知りながら何もできない自分の無力さを噛み締めながら。