第19章 謙信様の手紙
(あ…)
小さく畳まれた和紙が入っていた。
震える手でそれを開く。
和紙は茶色に変色していて丁寧に扱わなければ破れてしまいそうだった。
崩し文字ではない字が整然と並んでいて息を呑んだ。
『この手紙がお前の元に届くことを祈って、これを書いている。
お前の友に聞いて文字を改めてみたが読めるだろうか。
息災でいるか?
お前は俺との約束を守り生き抜いてくれただろうと勝手に思っている。
呆けているが決めたことはやり遂げる女だからな。
お前が去ってから俺は悔いてばかりいる。
愛する女が死にかけていたというのに気づいてやれなかった。
あの時お前にどう思われようと、戦が巻き起ころうと、俺の元へ連れてきていたのならこうはならなかったのだろうかと。
お前が俺に連絡する術(すべ)がなかったのはわかっている。
だがこちらで生きられないというのなら何故俺を一緒に連れて行ってくれなかったのかと、事情をわかっていながら感情が狂おしい嵐となる。
お前が居ない時の流れの中でどう生きたら良いのかわからない。
息をしているのに胸は苦しく、酒の味は水と同じになった。
お前が綺麗だといってくれた二つの目は何を見ても色をうつさない。
俺の手はお前の手を取りたいと空を泳ぎ、
俺の足は居ないお前を求めて安土へ向かいたがる。
お前の声がする気がして月ばかり見上げている』
たつきとゆりが何をしているのか『キャー』と笑う声がした。
私は唇をかみしめながら涙を流した。
視界が曇り、続きが見えなくなったので涙をぬぐう。
(寂しくても辛くても私にはたつきとゆりが居る。
でも謙信様は一人で苦しんでいるんだ)
『想いを交わし合った時にお前は俺の一部となり、それを失った俺はどこか狂ってきているのだろう。
皆が心配しているが誰の声も俺には届かない。
道は閉ざされたままだ。
俺はひたすらにお前を想い、恋し、そして朽ちていくのだろう。
ここまで腑抜けになるとは笑い種(ぐさ)だろうが、それほど深く愛していたのだとお前なら理解してくれるだろう。
できることなら時々この寺を訪れ俺を思い出して欲しい。
この身朽ち果てた時、俺はその地へ赴き、お前にやっと寄り添うことができるだろう。
愛している』