第2章 夜を忍ぶ
謙信「……」
謙信様は私に合図を送り、再び歩みを進める。
忍び対策の罠がある場所を謙信様が指さして教えてくれた。
教えてもらわなければわからない仕掛けの数々に戦々恐々となる。
(こんなにたくさん仕掛けがあちこちに!
佐助君、いつもこんな所を通って会いに来てくれていたんだ)
安土城に忍び込むのは危険だと漠然と思っていたけれど、忍び対策を目の当たりにすると本当に危険な行為なのがわかる。
(佐助君が元気になったら、お城に忍び込むのをやめるように言わなきゃ)
次からはちゃんと待ち合わせをして城下で会おうと心に決める。
それにしても、と思う。
天井裏を進み始めてしばらく経つような気がするのに城の外に出ない。
こうして腹ばいになって天井裏を進んでいると、普段廊下を通って玄関に向かうよりもずっと長く感じる。
明かりもない真っ暗闇なので、時間の感覚が狂っているのかもしれない。
背中の筋肉が苦痛を訴えてくる。
思いっきり体を伸ばして、腕を真上に広げて伸びあがりたい。
筋肉からの悲鳴を無視するために、無心で謙信様の後ろを追う。
どれくらいそうしていたのか、ある場所で謙信様の動きが止まった。
こちらを振り返る気配がして、私の両目を上から下へと撫でた。
(…目をつむれって事かな)
目を閉じると、さっきと同じように肩に担がれた。
(力をいれない、目を開けない)
何かがこすれるような音がしたと思ったら、新鮮な空気を感じた。
謙信様が動くと頬にあたる風を感じ、やっと外に出たのだとわかった。
またこすれる音が聞こえた。
(秘密の通路の出入り口…なんだろうな)
だから目をつむらせたのだろう。
謙信様が数歩歩き、辺りの気配を伺っているのがわかった。
危険な天井裏を通るという行為のせいか、今までになく感覚が研ぎ澄まされている気がした。
謙信様の筋肉の動きや息遣いで次の動作がなんとなくわかるくらいに。
謙信様は私を抱えたまま、高い所から飛び降りるという行為を何度か繰り返した。
ふわっとお腹が浮く感じに眩暈を感じながら、なるべく負担にならないようにおとなしく身を任せた。
そうしているうちに何かを駆けあがり、すぐ降りたつと謙信様がそっと降ろしてくれた。