第19章 謙信様の手紙
「す、すみません。お恥ずかしいのですが崩し字は読めなくて…」
三成君に少しだけ字を教わっていたけれど、短い期間だったので身に着けることはできなかった。
住職「いえ、構いません。言い回しが古いので少しかみ砕いてお読みしますね」
住職の指が文字列をなぞって動く。
内容はこうだった。
『もしこの寺に、鉄紺と漆黒色の組紐に括られた木製の鈴を持つ者が現れた時、寺の者は丁重にもてなすように。
その者は一国の姫である。
尊い存在であるにもかかわらず交わした約束を守るため、かの地に去ってしまった女である。
くれぐれも無礼をはたらく事のないよう。そしてこの記録と共に保管されている箱を渡すように』
『一国の姫』『約束』『去ってしまった』
胸を騒がすキーワードが次々とあらわれる。
(箱って…)
先程目にした小さな包みを見る。
厳重に封をされていたのだろうけど時の経過とともに劣化し、触るだけでハラハラと解けそうだった。
住職「失礼ですが最後に確認させてください。
その鈴は拾った、他人からもらった。譲り受けたというわけではありませんね?」
(謙信様からもらったって、そのまま伝えた方が良いよね)
「正直に言いますと、これは大切な方から贈り物として頂きました」
この鈴をくれた時の謙信様の姿が蘇る。
「『急なことで今はお前に似合う贈り物を持ち合わせていない。これは幼少の頃に世話になった住職から貰ったものだ。お前に贈ろう』と、そう言われて受け取りました」
住職「ああ、あなたはとても正直な方ですね。
試すようなことをして申し訳ありません。ここに…」
住職の指が本の続きをなぞる。